本「逃亡者の掟」と「許される日はいつ―ギリシャに潜んで13年」

「逃亡者の掟」の著者は、人見 安雄さん。
「許される日はいつ―ギリシャに潜んで13年」の著者は、一緒に逃避行をした妻の 人見 江利子さん。

人見さんは人生の歯車が狂っていつの間にか、少年院や刑務所を往復するような犯罪者になってしまった。
真面目にやろうと思っても、悪友の誘いを拒むことができず、窃盗に加担してしまう。
ただ器用なので、プロの社交ダンサーになったり、見よう見まねで覚えた縫製や油絵はプロはだし。

窃盗団の一人だったが、妻の「逃げなさい」の一言で海外へ逃亡を決意した。
日本にいたら悪い友達に誘われて。悪の道から逃れられないと思ったからである。

妻と一緒に香港、台湾、タイ、パリ、ベトナム、スペインへと逃げる。
ギリシャで画家として有名になり10年以上絵を描いては売り、一財産を築いてしまう。

そして逃亡生活に疲れ、望郷の念に囚われて自主を決意して日本に帰る。
 
そんな稀有な半生を描いた自伝書と奥さんの手記。
この本をFacebookで教えてもらって、名古屋の図書館に両方ともあったので借りて読むことができた。

映画のようですごく面白かった。
逃避行はスパイ小説さながらだし、ギリシャでの生活も生活感を感じるような懐かしさがある。

登場人物も個性が強く人間性があふれている。
サイゴンの健気な子どもたちに涙し、
画家としての先生になったアントニースの厳しさと優しさに触れ、
ギリシャでの困難と成功。

自分が官憲から逃避行しているような恐怖と、冒険のような旅の楽しさが同居した不思議な物語であった。

ところでこうやって13年間も逃げおおせたのは、
彼の朗らかな性格や見た目の良さや、彼の社交ダンスや油絵の能力もあっただろうが、
地縁も知己もいない外国で生活できるのは驚嘆すべきことである。

私は外国での食事や文化は気にならないが、生きていく糧を得るのは自信がない。
それ以上に、孤独に打ち勝つこともできないだろう。
トラブルに巻き込まれれば、身ぐるみ剥がされて身元不明の死体となるだろう。

彼が13年もの長い間やってこれたのは、ひとえに相思相愛の奥さんがいつも一緒にいたからだと思う。

ところで彼の絵が気になって、ネットで探してみた。
一つだけ見つけた。たぶん日本に戻ってきて刑に服した後で描いた作品だと思うが、細やかでファンタジーのような世界だ。

http://www.e-kotto.com/contents/020/post_2043.html

彼が自首して日本に戻って逮捕された1986年9月初めは、私は中国へ2ヶ月旅行しているときだった。
当時大きなニュースになっただろうに今日まで全然知らなかった。彼も私も愛知県にいたのに。

そして彼が自首する1年後には、私はギリシャへも立ち寄っていた。
1年早く行っていれば会えたかもしれない。ギリシャに住んでいる人にも旅行中に会っていた。
きっと話が進めば、彼のことが話題になっていただろうに、またよく知っている人にも会えたかもしれないのに。

まあ旅行中、日本人だけでなくいろいろ怪しい人と会って話をしていたからね。みんな元気でいるかな!?

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